障害年金3級 化学物質過敏症の場合

 一般的になかなか認められない病気の一つに、化学物質過敏症があります。本人は少しの匂いなどに身体が反応して、不快な症状が出るため、例えば、電車にも乗れなくなってしまいますし、当然会社などで、大勢で仕事をするのは難しくなってしまいます。ですので、障害年金を受給できるくらいに障害がある方は多いと思います。

 この方の場合、職場で大量のホルムアルデヒドに曝露して、化学物質過敏症になったため、診断名は揺るがないものでした。曝露してから最初の皮膚科受診が初診、1年半後は皮膚科、眼科、婦人科等の受診、そして退職後、化学物質過敏症にたどり着き、専門医受診で確定するという経過でした。ここで、初診日の皮膚科では皮膚の発疹が出現して治癒したという診断でしたので、化学物質過敏症の初診日といえるための証明が、難しいものでした。経過としては、職場で化学物質に大量に曝露する、まず皮膚の発疹、眼の異常等の外に出ている部位に初期症状、それから倦怠感、異常な眠気、頭痛、婦人科系の異常等、全身のありとあらゆるところに症状が出ます。ですが、化学物質との関連性には気づかずそのまま曝露し続ける、本人はストレスの一種だと思っていたそうです。そのため、皮膚科、眼科、婦人科に行っても、トータルで診てもらえることはなく「ストレスでしょうかね」という事で診察は終わります。処方薬を飲めば、その部分は一定の改善があるので、本人は治るであろうと考え、ますます化学物質過敏症と離れていってしまいます。大量の曝露は続いているので、最終的には起き上がることさえままならなくなり、退職を余儀なくされます。さて、退職して曝露から離れれば良くなるかというと、多くの方に後遺症が残ります。症状の重篤度は個々の方の経過等や個体差がありますが、この方は現在も職場復帰出来ていません。なので、障害年金を受給することは絶対に必要な事です。

 初診日は何としても在職中に受診した、化学物質過敏症専門医ではない他科の受診から始まっているとしたいため、私は、一番最初の皮膚科の受診状況証明書(治癒と書かれた)と、次に1年半後にかかった別の皮膚科の診断書をとりました。一応障害認定日の診断書として提出しましたが、到底内容的には3級に該当するような書き方はしてくれません。医師もその当時は、単なる発疹ができて受診した、としてしか聞いていませんので。そして、受診状況証明書が添付できない申立書も作成し、眼科等で開示していただいた複数の機関のカルテも添付、また、こちらの主張を「初診日にかかる申立書」として作成して提出しました。事後重症で、化学物質過敏症専門医の診断書によるものが本命の狙いですので、診断書料やカルテ開示の料金は勿体無いですが、初診日はどう考えても在職中のどこかの受診である、という主張を展開したのです。結果、この方は障害年金3級となりましたので、在職中のどこかの科が初診日と認められた訳です。どの受診を初診日と判定したのかが気になりますので、裁定調書の開示請求をしてみようと思います。

 同時に、この方の障害者手帳の申請、労災請求(公務災害)も取り組んでいます。残念ながら労災の結果はまだ出ていません。相当な時間(下手をすると2年くらい)がかかるようで、災害補償という観点から、如何なものかと思います。さて、障害者手帳としては、化学物質過敏症の場合、精神障害者手帳の申請が今は一番適しているようです。この方の診断名は「身体表現性障害」というものでした。当然ながらこの診断書は精神科の医師に書いて貰う必要がありますが、この方は精神科にかかったことはありません。手帳申請には「申請時に初診年月日から6か月以上経過していること」という要件があり、普通に「化学物質過敏症になったので、診断書が欲しい」と精神科に行くと、「それでは6か月間通ってくれたら書きます」という返事になります。精神科の薬を飲むわけではないので、全く意味がない話ですが、大体こういう対応になってしまいます。今回は、つてを辿って精神科の先生に事情を説明し、初診日は化学物質過敏症専門医受診日としていただき、その6か月経過後の診断として、精神科の診断書を作成していただきました。化学物質過敏症の方へ、身体障害者手帳交付の道が作られると良いと感じました。精神障害者手帳は2級とされました。

 障害年金3級が妥当であるかという事は、現在も強く感じています。電車に乗れない、人ごみの中に入れないという状況が、日常生活上どれだけ大変かを理解しての判断なのか、と思います。年金請求診断書の一般状態区分表の記載が、日常生活における他者からの介助の量に重きが置かれていますが、化学物質過敏症の方の場合、極端に言うと家の中で臭いがしなければ何も困らない訳です。介助は無しです。ですが家を一歩外に出たら、都会ではそこらじゅうに臭い(化学物質)が蔓延しているので、外に出られない。このことが適切に評価されていないことは明らかです。審査請求をするか迷うところです。