元保健所職員の新型コロナ対応奮闘記②

電話相談編


横須賀市接触者帰国者相談センター
  コロナ感染症が始まった当初から、電話相談窓口がいち早く設置されました。名称は「横須賀市帰国者接触者相談センター」といい、今もこの名称を使用しています。保健所の会議室をつぶし、ベテランの保健師さんを違う部から借りてきて配置し、急遽電話相談センターが開設されました。スタート当初は横須賀市役所中から保健師が集められ、保健所職員とともに、市の正規職員だけの当番制で、電話相談にあたりました。業務の内容は、不安な市民に対し電話で相談に応じ、必要な方にPCR検査を予約して検査につなげることです。全員が始めての経験でしたが、何しろかかってくる件数がとんでもない数でした。当初8本くらいの回線だったのですが、電話を置いた瞬間に鳴り、置いたら相談の記録が書けなくなるという、面食らうものでした。
 当時は、検査をした方の95%以上が陰性でしたので、熱が出たからコロナになったという集団心理的な、一種のパニック状態なのかなと思います。とは言っても、市民からのお話は「具合が悪いから、きっとコロナに感染した、検査して欲しい」というものがほとんどです。ですが、電話で話を聞いたところで、その人がどの程度具合が悪いのかは、ハッキリと分かるものではありません。

横須賀市PCRセンター
 一方、当初PCR検査については、横須賀市が市医師会に依頼をして、医師会駐車場に、横須賀市PCR検査センターが急遽プレハブで設置されます。電話やファックスを受けるのはプレハブ、医師や技師の詰め所もプレハブ、患者さんの対応にはアクリルボックスが置かれ、アクリル越しに手を入れらるようにして、患者さんの鼻腔に綿棒を入れて検体採取するという、駐車場アクリルボックス検査場です。また、自家用車に乗ったままのドライブスルー検査もしていました。単なる駐車場です。
 スタッフは、医師会の事務職員、医師会会員の病院や診療所のスタッフが、これも当番で検査に当たっておられました。何しろ酷暑の駐車場で、完全フル装備のPPE(医療従事者の個人用防護具)装着で、ガウン、手袋、ゴーグル、マスク、キャップ、アイガードを着用しての検査ですから、さぞかし辛かったと推察します。大型扇風機が後から購入されました。
 そういう検査場ですので、当然検査できる数には限りがありますし、患者が並んで密になるということも避けなければなりません。医師会の会員にお願いしているので、午前中は自分の病院での外来診療があり、午後のみという制約もあります。一日中やったら倒れます。そこで、数が少ない検査枠にどうやって適切に検査に導くか、というテクニックが問われる訳です。
  ですが、電話でお話を聞いてもハッキリした状態は分からず、国の基準に沿って、熱が37.5度3日間続いたか、という判断基準で、PCR検査に繋げるか否かを決めるしかありませんでした。味覚障害など考慮すべきことはありますが。自分の症状は自分しか分からないけれど、その症状を電話できちんと伝えるという事は、難しいことです。外国語の場合では、相当なハンデキャップであると思います。

相談センターとPCR検査の変遷

 その後、国から包括支援金という予算が手当てされ、体制の立て直しが図られます。相談を受けるスタッフは、派遣会社からの看護師さんとなり、職員は当番で2名ずつ、看護師さんをサポートしたり、検査予約の連絡、トラブル時の対応をする等の役割に変わりました。所謂人海戦術で、職員は身体的には当然楽になったのですが、違った苦労も発生します。看護師さんは派遣労働者なので、一般的には、時給の高いところに流れます。そうすると横須賀市より、○○市の方が高いという話しになり、価格競争的なことが起こります。一番は、予防接種事業がスタートした時、その時給はかなり高額でした。それは全国一斉にスタートしたため、どこの自治体もどうやって医師と看護師を集めるかの価格競争になりました。なので、相談センターを辞め、そちらに移る方も出てきます。すると同じ方が毎日来る訳ではないところに加え、新人や週一日だけ来るような方が多くなり、ベテランの派遣の方に、ある程度の教育はしてもらうものの、職員は相談レベルを一定にするための気苦労が増えたという感じです。
 PCR検査も、包括支援金と感染者が増えたのに合わせ、市内にもう二か所増設され検査枠が広がりました。こちらも病院の敷地内にプレハブを設置しての検査場です。病院の本来業務に加えて、対応していただいているので、大変な苦労だと思います。
  相談センターは、相談者から予約をとって合計三か所の検査場へ、予約者の氏名や予約時間等を連絡します。すると「予約時間に遅れそうだ」「場所がわからない」「検査する前に入院した」などと、検査人数が多くなった分の電話も増えることになりました。

 話しはずれますが、保健所の代表電話番号もパンク状態でした。普段の職員で対応できる数ではなくなり、代表電話についても、本数を増やし派遣労働者が充てられます。市民の方は「いつかけても電話が繋がらない」というお気持ちで、電話が繋がると、少し怒った口調のお話になります。また、こちらから電話しても繋がらないという事も多く、夜に再度電話をすることになります。携帯電話は番号が確実に残るので、掛けなおしてくれる方も多いのですが、当番業務なので、一応の引継ぎはするものの、誰が何のためにその市民に電話を掛けたのかが分からない、となり、それを調べるという事も日常茶飯事でした。 つづく